「従軍慰安婦」問題で、仲晃さんからコメント
イラク戦争4年の「3・20大阪集会」で記念講演された仲晃先生(元・共同通信ワシントン支局長など歴任)は、講演の最後の部分で、安倍首相の「従軍慰安婦」発言にふれ、米英諸国などで怒りと批判の声が高まっていることを詳しく紹介されました。
講演をまとめて発行したパンフを読み返すと、米下院外交委員会での決議の採択にまで至ったこの問題の重大性を、「安倍発言」の直後から鋭く指摘されていたことに改めて感銘を受けます。
その後の情勢の
進展のもとで、大阪実行委員会の求めに応じて、仲先生から11日、上記のコメントが寄せられましたので、ご紹介します
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「従軍慰安婦」問題に関する意見広告を悲しむ
平成19年6月14日、自民党、民主党、無所属の国会議員44人らが連名で『「慰安婦」強制はなかった』と題する意見広告を、アメリカで最も権威あるメディアの一つとして、国際的な名声を持つ「ワシントン・ポスト」紙に寄せた事実を知って、怒りや失望よりもまず深い悲しみに襲われた。この意見広告ほど、現在の日本人が、自国の歴史を正確に認識せず、さきの大戦で他国の市民たちに与えた大きな打撃を理解していないことを明白に示したものはない。それだけでなく、この意見広告は、今日の日本が、戦後60年にわたって営々と努力を重ねることで、受け始めている少なからぬ国際的な評価を、一気に台なしにしかねない行動というほかない。
この意見広告によって、戦後日本の民主主義的国家としての再生や、さらには人類初の原爆犠牲者としてのユニークな立場から、戦後一貫して掲げ続けてきた「不戦国家」「核の全面廃棄」といった輝かしいスローガンが、全世界から初めて疑いの目をもって見られ始めている。
今回の意見広告の問題点は多々あるが、最大のものは、論理的に国際社会を納得させるにはほど遠い、という致命的なものである。
日本政府は1992年、当時の河野官房長官が、従軍慰安婦の存在について、戦時中の日本政府の関与を公式に認めている。同95年7月には、当時の村山首相が、河野談話の上に立って、「女性のためのアジア平和国民基金」を発足させ、受領者には首相名で深い謝罪の手紙を渡していた。
今回の意見広告は、こうした日本政府の誠実な姿勢を継承するどころか、これを全面無視して、戦後日本の悪しき民族主義を丸出しにしている。もし意見広告に名を連ねた人たちが、今回のような立場を表明したいのであれば、河野談話と村山首相の行動をまず全面否定し、その上で、今回のような意見を表明するのが筋ではないか。 ただし、そうする前に、今回の意見広告が、日本政府と国民の意見を広範囲に代表するものであることを、国際社会に納得させておかないと、日本政界の少数派の意見として、無視される恐れが多分にある。
今回の意見広告はまた、敗戦日本の独立を認めた対日講和条約で、日本政府が約束した東京裁判の決定の全面支持をも撤回することにつながり、これは、日本国家と国民による重大な国際的背信行為として歴史に残る可能性がある。
従軍慰安婦は、先の大戦中およそ20万人いたとされるが、河野官房長官にしても、村山首相にしても、これらの人々が100%日本政府(陸軍)の強制によるものだったといっているわけではない。20万人が「性的奴隷」とのべているわけでもない。数は不明だが、そのかなりの部分が、日本軍の強制措置によるものだった、としているにすぎない。
それでも「従軍慰安婦」が、日本軍による強制を受けたという事実に変わりはない。逆に、今回の意見広告は、「慰安婦強制の文書が、今日まで保存されていない」というだけの根拠から、あたかも日本軍が強制的に集めた慰安婦が、一人も存在しなかったかのように主張している。実際には、5月にソウルで開かれた集会などで、戦時中日本軍に強制的に慰安婦にされた女性が名乗りをあげているのだから、意見広告に名を連ねた論客たちは、これらの女性に向かってどういうのだろうか。「強制徴用証明書」を出して見せなさい、とでも要求するのだろうか。
日本の右派勢力が、強引きわまりない‘論理'をこねて、従軍慰安婦の存在を否定したことで、アメリカを中心とする国際社会で、慰安婦と女性の人権蹂躙問題がタイアップされ始めた。日本ではこれまで、この角度から問題がとりあげられることがほとんどなかったが、今後は国際社会の支配的潮流である人権尊重とからめて、慰安婦問題が糾弾されることになろう。今回の意見広告に唯一メリットがあるとすれば、こういった新たな視点をわれわれに思い出させてくれたという点である。日本政府が慰安婦問題を無視して、10人の拉致被害者の帰国問題を取り上げるときには、いつも20万人の慰安婦の問題が、同じ「人権尊重」の立場から提示されて、日本国民に反省を迫ることになるだろう。(了)
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